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大阪高等裁判所 昭和54年(行ス)11号 決定

抗告人

大阪入国管理事務所

主任審査官

田野井優

右指定代理人

平井義丸

外四名

相手方

野村次郎こと

康淡溶

外四名

右五名代理人

松井清志

木内道祥

主文

一  原決定主文第一項を取消す。

二  本件執行停止の申立中抗告人が相手方らに対し昭和五三年一二月一八日付で発付した外国人退去強制令書に基づく送還の執行停止を求める部分を棄却する。

三  手続費用は第一、二審とも相手方らの負担とする。

理由

抗告人は主文同旨の裁判を求め、その理由として別紙のとおり述べた。

よつて按ずるに、記録によると、相手方らは朝鮮国籍を有する外国人であるが、相手方康淡溶は昭和四一年二月頃神戸港に入港した韓国船第三長栄号の乗員であり上陸許可書の発給を受けて上陸中のところ、法定の除外事由がないのに上陸許可期間昭和四一年三月八日二三時を経過して本邦に残留する者であり(出入国管理令二四条六号該当)、同左吉生は有効な旅券または乗員手帳を所持せずかつ法定除外事由がないのに韓国釜山港から小型木造船で昭和三二年二月二七日頃本邦阪神地方に入つた者であり(同令二四条一号該当)、同康太赫(西暦一九七一年七月二五日生)、同康峰赫(西暦一九七二年二月二六日生)、同康喜善(西暦一九七七年一〇月三日生)はいずれも相手方康淡溶、同左吉生を父母として本邦で出生し、したがつて在留資格の取得を申請してその旅券に在留資格、在留期間に関する法定の記載を受けなければならないのにこれを受けず出生後六〇日を経過して本邦に残留する者であり(同令二四条七号該当)、相手方らに対してはそれぞれ昭和五三年一二月一八日付で外国人退去強制令書が発付されていることが認められる。

ところで、相手方らは本案事件(大阪地方裁判所昭和五四年(行ウ)第七八ないし第八二号)において同令四九条一項による相手方らの異議申出を理由なしとした裁決及び相手方らに対する退去強制令書発付処分の無効確認を求め、その理由として法務大臣において特別在留許可(同令五〇条)をすべき旨主張するのであるが、特別在留許可を与えるかどうかは法務大臣の自由裁量に委ねられているのであり、これを与えずに異議申出を理由なしとした本件裁決が著しく裁量権の範囲を逸脱した違法なものであることを認めるべき資料はなく、右裁決及びこれに基づき発せられた退去強制令書発付処分について重大かつ明白な瑕疵があるものとはとうてい認められない。よつて、本件執行停止の申立は、行政事件訴訟法二五条三項にいう「本案について理由がないとみえるとき」に該当するものというべく、失当として棄却を免れない。

そうすると、原決定中、右申立を認容した部分は不当であるからこれを取消し、本件執行停止申立中抗告人が相手方らに対し昭和五三年一二月一八日付で発した退去強制令書に基づく送還の執行停止を求める部分を棄却し、手続費用は第一、二審とも相手方らに負担させることとして、主文のとおり決定する。

(川添萬夫 吉田秀文 中川敏男)

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